その日の放課後。 「気にしすぎじゃないですか?少なくとも、僕にはそうとしか思えませんが」 校舎と寮の間に位置する階段ですれ違った空に相談してみれば、いつもと同じ淡々とした口調で、空はそう言ってのけた。 「大体、センパイはあの日以来少し様子がおかしいですよ?僕には、センパイが気にかけすぎてるようにしか思えません」 「そうは言っても…でも」 「それに、もしセンパイをじっと見ているような奴が居るのだとしたら、僕はそいつには容赦できませんね。今すぐにでも名乗り出てもらいましょう」 「ちょっと…名乗り出てもらったらどうする気なのよ、空」 表情には殆ど出さないまま、けれど剣呑な雰囲気を纏い始めた後輩に風香は苦笑しながらやんわりと制止した。 「それに、そんな人が居るなんてまだ決まった訳でもないんだから」 「だと、良いんですけど」 そう言って、空は僅かに唇を尖らせた。 そうした途端、空の端正な顔が年相応の少年の顔になり、その顔があまりに魅力的で、風香は思わず目を見張った。 こういう表情をもっと見せるようになったら、女の子にもっとモテるだろうに―――そう思うと、風香は少し勿体無いような気分になった。 まあ、無愛想なのが空の個性ではあるのだけれど。 そんな事を思っていた、その時だった。 ―――ドンッ! 「え……っ……!?」 「センパイ…っ!!」 背中を誰かに押された、その弾みで風香の体は宙へと投げ出された。 石畳の階段へと投げ出された体は、重力に遵って落ちていくしかない。 辺りに居た他の生徒達が気付いて悲鳴を上げる、その様が風香には酷くゆっくりとその瞳に写った。 ―――落ちる! 空が手を伸ばしている。 けれど、その手は宙を掴み、空しく空を切った。 「センパイっ………!」 もう駄目だ、地面にぶつかる―――そう思い、空は目を逸らした。 カンパネルラ03〜反転世界の天使〜より一部抜粋